ジョブリットメディアにおいて、「社会人の役に立つコラム」を執筆するZ世代の新米ライター“品本 芽生(しなもと めい)”。
その記事における名(迷?)物作品が、スライム・芽生と北海道のウサギの“知識のかけら”を巡る冒険を記した『スライムは転生してもやっぱりスライムだった件(通称・スラ転スラ)』です。
長らく連載が続き、佳境を迎える本作を年末の特集として、5本立ての総集編でお送りいたします。
第3弾である今回、1つめの“知識のかけら”を手にしたスライムと北海道のウサギの冒険は、さらに過酷なものとなっていきます。
それでは本編へどうぞ!
Lv:6のスライム(成長日記12)

前世からの友達である“北海道のウサギ”とともに、熱砂の砂漠をさまよっていたLv:6のスライム・芽生は冒険の末に、1つめの知識のかけら“(正当な)残業の必要性”を獲得した。
「えへへ」
「キュ、キュン?(訳:芽生ちゃん、嬉しそうだね?)」
「やっと1つめの“知識のかけら”が手に入ったんだもん。これがあればレベルアップできる。そうすれば魔王さまの寵愛を受けられるはず!」
上司である魔王は酒と強くてかわいいモンスターをこよなく愛し、世にはびこる名ばかりの“WEBライターもどき”には厳しくあたった。
芽生も適当に言い繕うことができない生真面目さが災いし、余計な一言で魔王を怒らせていた。
「キュ、キュン? キュキュキュ?(訳:ねぇ、芽生ちゃん。私、ずっと思っていたんだけど、“知識のかけら”を集めて最強のライターになるって本当にいいことなのかな? その先に芽生ちゃんが望むような結末は待っているのかな?)」
「それは……」
北海道のウサギの言うことはもっともだった。
魔王から直接「真っ当なライターになれ」と言われたことはないし、そもそも自分が頂点に立ちたい魔王が、大勢いる配下の1人(匹)でしかないスライムに最強のライターになってほしいと考えるはずがない。
不安になった芽生は立ち止まり、空を見上げた。そこには重い雲が覆いかぶさっていた。
12話の後日談
重い雲から雪が舞い落ちてきたころ。
あれから2日が経ったものの、芽生の身体は木陰から動かなかった。いや、動けなかった。
心配を悟られまいと、明るく優しい声で北海道のウサギは尋ねた。
「キュン、キュン?(訳:芽生ちゃん、大丈夫?)」
ウサギは芽生の小さな身体に寄り添い、いてつく夜でも凍えないように温めてくれていた。
その優しさが冷え切った芽生の心をゆっくりと溶かしてくれた。
ようやく芽生が口を開いた。
「ずっと考えてたんだ。最強のライターになったところで、本当に魔王さまに大切にしてもらえるのか」
か細い声でポツリポツリと話し続ける。
「分からなかった。私は魔王さまを尊敬してるけど、もし私が最強になったら魔王さまにとって邪魔な存在になるかもしれない」
「キュン……(訳:芽生ちゃん……)」
「それに、転生してもスライムのままだったとはいえ、前世とはレベルもスキルも違う。もう、私だって気付いてもらえないかもしれない」
はたから見れば、みんな同じ姿形をしているように見えるスライムだが、それぞれの個体を識別できるように魔王から“固有スキル”を与えられているのだが、その固有スキル・『生真面目』は転生とともに消え失せていた。
芽生を芽生だと見極める手段は、なぜか残っていたゆるキャラとの“友情パワー”だけなのだ。
「だけど、もういいんだ。私はそれでいいんだ」
「キュ?(訳:え?)」
「“ライター界の頂点に立ち、すべての物書きを屈伏させる”という魔王さまの最終目標のお手伝いができるなら、私を私として見てもらえなくてもいい。それに最強になったときのことなんて、なってみないと分かるわけないもんね」
吹っ切れたように芽生は言葉を繋ぐ。
「なんてムダなこと考えてたんだろうね」
そう笑いながら問いかける芽生につられて、ウサギも笑った。
いつの間にか雪は止んでいた。
「さぁ、次のかけらを探しに行こう!」
「キュン!(訳:うん!)」
笑顔でうなずきあい、2人(匹)は歩き出した。そして雪道には真新しい足跡だけが残された。
降り続ける雪が足跡を隠しても、2人(匹)の熱い想いが消えることはなかった。
Lv:7のスライム(成長日記13)

Lv:7のスライム・芽生は自らの進むべき道を再確認し、前世からの友達である北海道のウサギと“知識のかけら”を探す旅を続けていた。
2人(匹)が進むのは険しい崖がそびえ立つ高山地帯。一度、足を取られたら地面まで真っ逆さまという恐ろしい場所に、芽生の額には汗が滲んでいた。
「こんな高いところなのに、ウサギは平気そうだね?」
「キュン、キュキュキュ(訳:もともと私が暮らしていたのはここみたいな山の上だったからね。寒いのにも空気が薄いのにも慣れっこなんだ。むしろ、前に行った砂漠のほうがキツかったな……。毛が長いとどうしても暑さに弱くなるから)」
とある北海道の山は険しい岩場がたくさんあり、そこで生まれ育ったウサギはどんな環境にも対応できる脚力を持っていた。
「しかし……本当にすごい斜面だねぇ……」
岩場から下を覗いてみれば、動物の骨やがれきが見えて、芽生は身の毛がよだつ思いをした。
危ないから早く離れようと後ろに振り返った。
そのとき――
ガラガラという音とともに芽生の身体は宙に投げ出された。
動いた拍子に足元のもろい岩が崩れ落ちたのだ。
「うわあぁぁぁ!!!!」
「キュ!!(訳:芽生ちゃん!!)」
遠ざかっていくウサギの姿を見ながら、芽生の意識は闇へ落ちていくのだった。
13話の後日談
「うっ……」
鋭い背中の痛みで芽生は目を覚ました。
元いた場所からはだいぶ落ちてしまったようで、ウサギの姿はおぼろげに見える程度だった。
「キュ! キュキュン!(訳:芽生ちゃん! 目が覚めてよかった!)」
「でも、どうしよう。私じゃこの岩場は登れないよ……」
全身が粘液でできたスライムの身体では、急な岩場を登っていくことは不可能だった。
「キュン!(訳:私に任せて!)」
そう言うと、ウサギは岩場を目に留まらぬ早ワザで駆け下りていった。
息をつく間もなく、ウサギは芽生の隣に降り立った。
「すごい! 斜面をこんなに速く下りられるなんて!」
「キュキュ、キュキュン(訳:えへへ、これくらい北海道の山岳地帯で暮らすウサギなら朝飯前だよ)」
照れ笑った後、ウサギは芽生を地面から抱き起こした。その直後、芽生は痛みに呻いた。
「キュ、キュキュ?(訳:芽生ちゃん、どうしたの?)」
「背中が痛いの……。まるで何か刺さっているみたい……」
芽生の言葉を聞いて背中を確認したウサギは、そこに小さな破片が刺さっているのを見た。
慌てて芽生の背中から破片を引き抜き、傷の手当をしていると破片が突然まばゆい光を放ち始めた。
「ねぇ、この光……」
「キュン……キュ!(訳:間違いない……“知識のかけら”!)」
どうやら、地面に埋まっていたかけらが岩とともになだれ落ちてきたらしい。
探し求めていた2つめのかけらが手に入り、芽生は背中の痛みも忘れて喜んだ。
「2つめの“知識のかけら”、ゲットだぜ!」
「キュッキュキュウ!(訳:ピッピカチ○ウ!)」
2つめのかけらをしまい、芽生は上を見上げた。
今の芽生には高い岩場が前よりも低く見えた。
「行こう、ウサギ!」
「キュン!(訳:うん!)」
ウサギの背に乗り、芽生たちは上をめざした。
2人(匹)の冒険はまだ始まったばかり。次はどんな“知識のかけら”に出会えるのだろうか。
次回へ続く――!
Lv:8のスライム(成長日記14)

険しい崖がそびえ立つ高山地帯で2つめの知識のかけら“完全週休2日制の素晴らしさ”を手にしたLv:8のスライム・芽生は、前世からの友達である北海道のウサギとともに旅を続けていた。
2人(匹)は次なる目的地である離れ小島をめざし、大海原にボートを漕ぎだした。
……のだったが、
「なにこれぇ……気持ち悪い……」
「キュン、キュ!(訳:芽生ちゃん、しっかり!)」
岸を出発してからしばらくすると、芽生はひどい船酔いによりボートを漕げなくなってしまった。
生まれてからこの方、魔王城(会社)のある陸地で暮らしてきたスライムにとって、常に揺れ続ける海の上は不快でしかなかった。
「ウサギ……ごめんね、ボート漕がせちゃって……」
「キュ、キュキュ! キュキュキュン!(訳:ううん、大丈夫だよ! それより、ようやく島が見えてきたよ!)」
ウサギが指さす先には自然豊かな島が浮かんでいた。
「やった! 久しぶりの陸だ!」
久方(30分)振りの陸地に、芽生は歓喜に震えた。
2人(匹)の新たな冒険が幕を開けた。
14話の後日談
「つ、着いた……!」
「キュ、キュキュン……(訳:芽生ちゃん、本当にお疲れ様……)」
船酔いのせいでいつも以上に真っ青な芽生の背をさすりながら、ウサギは眼前に広がる景色を見つめた。
丸い果実のなった大きな木に、広い砂浜と青い海。それは、書物で伝え聞いた“南国”そのものだった。
“知識のかけら”が異国にあるのではないかと言い出したのはウサギ自身だったが、かけらが見つかるかは五分五分だと考えていた。
しかし、実際に異国の地を見て、考えが大きく変わった。
仮にも魔王の配下であるモンスターには“毒”となり得るほどの神聖な空気。まるで神の地ではないかと考えてしまうほどのそれを纏う島は、“知識のかけら”が眠っていてもおかしくないと思わせるのには十分だった。
「キュ?(訳:どこから探していく?)」
「そうだね……。まずは、島の中心をめざしながら探そうかな?」
島の中心にそびえ立つ大きな塔を指さしながら、芽生は歩き始めた。
獣の声1つしない島は2人(匹)を歓迎しているように思えた。
次回へ続く――!
| \学歴・経験不問の求人は/ \『ジョブリット』で検索/ |




