前回は、円満に退社するための正しい退職の伝え方を解説しました。
そして、その記事でも解説したとおり、本来、企業には退職を引き止める権利はありません。
しかし、企業側としては貴重な人材の離職を避けたいと考えるのも当然のこと。となれば、なかば強引にでも、引き止めようとすることもあるでしょう。
では、望まない引き止めにあったとき、労働者はどうすればいいのか。
今回はよくあるケース別に、引き止められたときの対処法を紹介していきます!
皆さんは退職を経験したことがあるでしょうか。厚生労働省が発表した「令和5年 雇用動向調査結果の概況」によると、1年間に離職した正社員は12.1%とのこと。これはあくまで1年間の統計であり、実際に「退職(転職)をしたことがある[…]
ケース別!引き止めにあったときの対処法を紹介!
現代では労働者が退職を希望した場合、スムーズに進むことの方が圧倒的にマジョリティです。
ただ、無理にでも引き止めようとする上司が一部にいることも事実。
純粋に離職を惜しんで引き止められるならまだしも、上司の保身や嫌がらせを目的として人生を狂わせるのは、許しがたい行為です。
よくある悪質なパターンを下記にまとめました。
・退職願を受理してもらえない
・次の人が見つかるまで待てと言われる
・残りの給料を払わないと言われる
・有給休暇を認めないと言われる
・損害賠償請求をちらつかせる
・退職金を支払わないと言われる
・賞与を支払わないと言われる
今回は、これらのケース別に対処法を解説していきます。
退職届を受理してもらえない
基本的に、会社は従業員からの退職届の受理を拒否することはできません。そのため、対処法も非常にシンプルです。
「どうしても受け入れていただけないのであれば、内容証明郵便で退職届を送付いたします。到着から2週間をもって退職とさせていただきますので、よろしくお願いいたします」と伝えましょう。
前回、解説したとおり、円満退社をめざすなら1カ月半~2カ月程度が必要。
ある意味では、それよりも早く退職できるラッキーな引き止め方法とも言えます。
とはいえ、上記のように伝えれば、通常の手続きに移行するケースがほとんどではあります。そのときはこちらも無理強いせず、粛々と退職手続きを進めましょう。
次の人が見つかるまで待たされる
このパターンは、特に人手不足に悩む業界・企業でよく聞く引き止め方法です。
しかし、これも待つ必要は一切ありません。なぜなら次の人材を確保するのは会社の都合であり、労働者には関係のない話だからです。
この場合の対処法も、退職届の拒否とまったく同じ。内容証明郵便で退職届を送付することを伝えましょう。
残りの給料を払わないと言われる
正直な話、このパターンは、ネットで見かけることはあるものの、あまり現実的ではないと思います。というのも、本当に賃金を支払わなければ、企業には刑事罰が科されることがあるからです。
そのため、こんなことはほぼありえません。
万が一、退職を主張した際に「残りの給料は払わないぞ」と脅されても、「労働基準法に基づき、正当な支払いを求めます」と伝えるだけでOKです。
その場合、まだ給料として支払われていない期間、そして退職までの期間の労働時間を明確にするために、勤怠表やシフト表、タイムカード、出退勤メールなどを控えておきましょう。
まずありえないことではありますが、退職後の給与がもらえない、もしくは著しく低い場合、会社に問い合わせるか、労働基準監督署に申告しましょう。
労働基準法第百二十条とは?
企業は労働者に対して、労働分の対価を支払う。これは形式を問わず、どんな労働契約でも必ず規定されています。
そしてそれを怠った場合の罰則は、労働基準法120条に明記されています。
第百二十条次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一第十四条、第十五条第一項若しくは第三項、第十八条第七項、第二十二条第一項から第三項まで、第二十三条から第二十七条まで、第三十二条の二第二項(第三十二条の三第四項、第三十二条の四第四項及び第三十二条の五第三項において準用する場合を含む。)、第三十二条の五第二項、第三十三条第一項ただし書、第三十八条の二第三項(第三十八条の三第二項において準用する場合を含む。)、第三十九条第七項、第五十七条から第五十九条まで、第六十四条、第六十八条、第八十九条、第九十条第一項、第九十一条、第九十五条第一項若しくは第二項、第九十六条の二第一項、第百五条(第百条第三項において準用する場合を含む。)又は第百六条から第百九条までの規定に違反した者
つまり、本当に賃金を支払わなかった場合は、企業は30万円以下の罰金を受けることになります。当然ですが、あなたに正当な賃金を支払うほか、国に罰金を払うということ。
繰り返しますが、こんなことを実行する会社はまずありません。
もしこう言われた場合、その会社を辞める判断は大正解だったと言えるでしょう。
有給休暇を認めないと言われる
有給休暇も労働者に認められた正当な権利です。こちらは労働契約期間を終えたあとに使用することはできないので、ルールに基づけば、退職までに使い切ることになります。
しかし、実際に使い切れたケースはまれで、むしろほとんど使わせてもらえなかった人が多いというデータもあります。
ただし、すべて企業が悪いとは限りません。周囲に迷惑をかけないよう、労働者が自発的に配慮した可能性もあります。使い切るよりも、早期の退職を優先したかもしれません。もっとも幸せなパターンとして、有給休暇を買い取ってもらったケースもあるでしょう。
あくまでルールとしては、企業は有給休暇の申請を原則、断れません。
それを踏まえたうえで、引継ぎに支障をきたさない範囲での消化や、買取の交渉を行うべきでしょう。
損害賠償請求をちらつかせる
こちらも「給料の支払い拒否」と並んで、まずありえないケース。
ルール(法律)に基づいた退職の場合、もし訴訟を起こされたとしても、あなたが負けることは絶対にありませんのでご安心ください。
ただし例外もあります。前回の記事で紹介した民法627条を再度、引用します。
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
つまり法律上、退職までの最短期間は2週間。これよりも短い期間での退職を強行した場合は例外となります。
また、貸与品の返却を断った場合も、損害賠償を請求されるかもしれません。
通常はありえないことですが、念のため、気を付けてください。
例外:損害賠償される可能性があるケース
2週間以上、もっといえば理想とされる2カ月程度の猶予があっても、貸与品などをすべて規定どおりに返却したとしても。
それでも例外となるパターンもあります。
それが「有期雇用」契約を結んでいる場合。いわゆる契約社員のほか、派遣社員の一部が該当します。
これらの雇用形態では、民法628条に基づく退職処理が必要となります。
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
この条文によれば、有期雇用契約者は「やむを得ない事由があるときは(中略)直ちに契約の解除」ができることになります。
逆に言えば、「やむを得ない事由」がなければ期間中の契約解除ができず、「損害賠償の責任」が発生するということです。
期間を定めた労働契約を結んでいる方は、より慎重に転職時期を考えてください。
退職金を支払わないと言われる
最後のパターンは、会社の規則によります。退職金制度は企業の義務にはあたりません。ということは、そもそも制度がない会社では支払う必要はありません。
しかし、そういった会社でこう言われることはないでしょう。
では、退職金制度がある場合、正確に言えば、就業規則に退職金規程が記載されている場合はどうなのか。
こちらは支払う義務が発生します。
万が一、「無理に退職をすると言うなら、退職金は支払わない」と言われても、基本的に気にする必要はありません。ただし、念のため就業規則の控えを取っておきましょう。
そして、もし条件を満たしているのに退職金がもらえなかった場合は、控えを持ったうえで労働基準監督署に相談しましょう。
ちなみに、労働基準法115条により、退職金を含む賃金未払いの時効は5年と定められています。遅れないように注意してください。
賞与を払わないと言われる
今回、紹介した中で、唯一、会社側の言い分が(一部)正しいケースがこちら。
まず、退職金と同様に、会社の規則に賞与の記載がある場合、こちらも対象者には支払う義務があります。そのため、退職直前だとしても、在籍期間中にボーナス支給日を迎えれば、ボーナスをもらうことができます。
ただし、退職金と異なるポイントが1つあります。それは、賞与の意味合い、。
通常、賞与には「労働への対価」とともに、「今後の活躍への期待」が含まれます。そして退職予定者にかんしては、後者は一切期待できません。
つまり、支給はしなければならないものの、後者分の減額は企業にとって正当な行為ということになるのです。
規則で賞与を支給することやその日時、条件は規定されていても、金額の計算式までは記載されていないでしょう。それは、支給額がいくらであっても「不当だ」と言い切れないということです。
退職を予定している場合、賞与には期待しない方が無難と言えるでしょう。
まとめ:引き止められても気にしない!
前回に引き続き、今回も少し難しい話が多くなってしまいました。特に今回は法律の引用も多かったので、分かりにくかったかもしれません。
今回の記事をまとめると、下記のようになります。
・企業に退職を拒否する権利はない
・法律上、労働者は契約終了の通知(退職届の提出)後、2週間で退職できる
・企業は労働者の労働に対して、就業規則で決められた賃金を支払う義務がある
・有給休暇は労働者の正当な権利
・法律に基づく退職の場合、損害賠償を請求することはできない
・会社規則に退職金に関する記載がある場合、対象者に支払う義務がある
・賞与も支払いの義務はあるが、減額は可能
これでも、まだ若干むずかしいと感じるでしょうか。
ただ、これだけは絶対に忘れないでください。
無理な引き止めは違法行為です。
そもそも、日本国民は憲法で職業選択の自由が保証されています。労働基準法や民法は、すべて憲法の理念をもとに作られています。
つまり、あなたはあなたの意思で職場を選ぶことができるのです。
退職を決めたのであれば、上司の嘘に惑わされることなく、意思を貫いてください。
そして、次の職場を探す際には、ぜひ『ジョブリット』をご活用ください!
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