前回は現代にまん延する「○○ハラスメント」を53種、解説しました。
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世の中にまん延する「○○ハラスメント」。時代が進むにつれ、その数はどんどん増えています。そこで今回はセクハラ、パワハラと…
そちらをご覧になっていなくても、「53種」という数字を見るだけでいかにハラスメントが細分化されているかが伝わるでしょう。
そのため、すべてのハラスメントを完全に予防するのは、事実上不可能と言えるかもしれません。
それでも、可能な限り職場のハラスメントの予防法と事後対応について解説していきます!
ハラスメントを予防するには「知る」ことが大切
ハラスメントを予防するには、まず「各種のハラスメントは“なぜ”起きるのか」を知る必要があります。
そして、ハラスメントが起きる要因は、大きく分けて個人的要因と組織的要因の2つがあると言われています。
[個人的要因]
・“してはいけないこと”を知らない「無知」によるもの
・自身の行為がハラスメントに該当すると思っていない「無自覚」によるもの
[組織的要因]
・日常的に強いストレスにさらされた職場環境
・閉鎖的な職場環境
それではここから、これらについて1つずつ解説していきます。
個人的要因
会社に限らず、ハラスメントは個人それぞれの「無知」、または「無自覚」によって引き起こされます。
それなら教えれば済む話。そう考える方もいるかもしれません。
しかし、ハラスメントが細分化しすぎた現代では、かんたんな話ではありません。ハラスメントを恐れるあまり同僚とのコミュニケーションに支障が出る恐れがあるからです。
これが上司となると、さらに複雑。部下に対して必要最低限の関与さえできなくなり、部署が、ひいては社内全体が機能しなくなる可能性もあります。
これらを避けるためにも個人それぞれが、何がハラスメントにあたるのか“正しく”理解する必要があるでしょう。
無知によるもの
これは比較的、ハラスメントに対して寛容だった時代を長く過ごした年長者にありがちな要因。
「叱るのも愛情」
「就活は会社が優秀な人材を選ぶもの」
「高学歴者は仕事もできる」
などなど、過去の“当たり前”が現代でも通用すると考えてしまうのです。
無知によるハラスメントは、本人に悪意がない分、たちが悪いとも言えます。また相手が年長者の場合、周囲も指摘することをためらってしまうかもしれません。
とにかく自分の意見を押し付けず、相手がどう感じるかを最優先に考えることが大事です。
無自覚によるもの
こちらは年齢やキャリア、役職に限らず、誰もが該当する可能性がある要因。
前回紹介したものの中にも、ダイエット中と知らずにお菓子を配ってしまうオカハラや残業を予防するべく早く帰ることを促すジタハラ、妊娠中の女性に気を遣いすぎてしまうニンハラなどは、まさにその好例と言えるでしょう。
これを予防するには、やはり各種ハラスメントを「知る」ことがなにより大切。
とはいえ、ハラスメントを過剰に気にすることにも弊害があるため、知ったうえで必要以上に気にしないというむずかしいバランス感覚を養う必要があるでしょう。
組織的要因
個人がどれだけハラスメントに気を付けていても、常に強いストレスにさらされている環境では、ハラスメントを完全に避けることはできません。
また、外部の冷静な視点が入り込むことのない、閉鎖的な環境もハラスメントが発生しやすいそうです。
強いストレスによるもの
部署全体が高すぎる目標を課せられている。作業量に対して人員が圧倒的に不足している。
こういった強いストレスのかかる職場では、従業員が心の余裕を失い、結果としてハラスメントが発生しやすくなります。
またこのような職場では人間関係が悪化しやすく、そのこともハラスメント発生の要因となりかねません。
人間だけではなく、組織にとってもストレスは大敵。従業員が職務にまっとうできるよう、ストレスのない環境をつくりあげることが大切です。
閉鎖的な環境によるもの
地方支社などで支社長がすべての権限を握っているなどの閉鎖的な環境も、ハラスメントが発生する職場の特徴。
さらに、閉鎖的であるがゆえに被害者が声を上げにくく、深刻化しやすいという問題も抱えています。
悲しいことに、これに対して一般の従業員ができることはかなり限られていると言えるでしょう。
ただ、支社長などに全権を委任できるということは、企業自体はそれなりの規模を持っているとも考えられます。
本社のハラスメント相談窓口に声を上げるなど、風通しのいい職場をめざしてあきらめずに行動を続けるしかありません。
ハラスメントを起こさないための職場づくりとは?
ここまで解説したとおり、ハラスメントが発生する要因には個人と組織、それぞれに存在します。
しかし、個人レベルの対策はできても、職場環境の改善はかんたんではありません。
ここからは厚生労働省の調査を参考に、ハラスメントが発生した職場と発生していない職場、それぞれにどんな特徴があるかをチェックしていきましょう。
ハラスメントが起きる職場の特徴
ここで使用する厚生労働省の調査は、過去にパワハラ・セクハラが発生した職場の特徴と、発生していない特徴を比較したもの。
その中でも、特に数値の差が大きいものを抜粋して紹介します。
まずはパワハラ経験のある職場とない職場の数値の違いから。
(令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 主要点「図3」より抜粋)
続いてはセクハラ経験の有無による数値の違いです。
(令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 主要点「図4」より抜粋)
この中でも、特に気になる項目をピックアップします。
上司と部下のコミュニケーション
パワハラ・セクハラを問わず、数値に大差があった項目。その要因には、以下の2つが考えられます。
・コミュニケーションが取れていない職場では、上司から注意されるリスクが小さい
上司と部下のコミュニケーションについては、部下から積極的に話しかけるのはむずかしいのが実情。ぜひ上司から部下に対して、プライベートに踏み込み過ぎない程度に話しかけてあげてください。
残業が多い、休暇が取れない
従業員がストレスなく働くために必要なのが休養。しかし残業が多かったり、有給休暇を自由に取得できない職場では必要な休養は取れませんし、会社への帰属意識が高まることもないでしょう。
そもそも、労働基準法が定める労働時間の上限は1日8時間、週40時間。この法律は「労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」という理念の下、この時間を規定しています。
また、有給休暇についても、本来はその取得に際して企業側の意思が入る余地は用意されていません。
企業側はハラスメントを防止するためだけではなく、そもそもの法律の意味を理解したうえで、従業員に適度な休養を与える必要があるのです。
ハラスメント防止規定がない
大企業はもちろん、新興企業も積極的に取り入れているのがハラスメント防止規定。ルールを定めるだけでハラスメントがなくなるわけがないと考える人も多いでしょうが、調査結果を見る限り、大きな意味があるようです。
ここでポイントになりそうなのが、規定導入に際し行われるであろう説明会。細分化されすぎたものや最新のハラスメントはともかく、少なくともセクハラやパワハラ、マタハラなどの三大ハラスメントへの無知は大きく改善することになるでしょう。
また、規定を導入するということは、上層部のハラスメント予防意識が高いことの証明でもあります。そのことが社内全体に浸透することで、予防に大きな効果をもたらすのかもしれません。
失敗が許容されない
こちらも社内を緊張状態にさせる項目。部署や社内から失敗を許容しない風潮を消し去るには、上層部や上司の意識改革が必要です。
今は部長などの役職に就いていても、若いころには多くの失敗を重ねてきたはず。そういった経験を踏まえて成長したからこそ今の実力があり、今の役職があるはずです。
失敗は成長に必要不可欠なもの。ミスを叱るのではなく、成長の糧にできるよう指導してあげてください。
冗談、おどかし、からかいが多い
ハラスメント発生の個人的要因のうち、「無自覚」に直結するのがこちらの要素。
しかし、冗談やからかいなどは本人に悪意がないことも多く、他人の視点で良質なコミュニケーションとの差異を見抜くのがむずかしいかもしれません。
ただし、パワハラで約6倍、セクハラでも約5倍の差があるということは、やはり加害者側は冗談のつもりでも相手はそう受け取れなかった、というケースが多いのでしょう。
本当に悪意のないハラスメントは、被害者だけではなく加害者にとっても悲しいこと。こういったケースを避けるためにも、深刻化する前に相談できるような風通しのいい職場をつくる必要がありそうです。
あてはまるものはない
セクハラやパワハラが発生しなかった職場では、一般的に想定される不健全な事象について、「どれも当てはまらない」という答えがもっとも多く集まりました。
ここに挙げたものだけではなく、厚生労働省の元資料を確認して、こういった不健全な状態がひとつもない職場づくりをめざしてください。
ハラスメントの事後対策
どれだけ予防に力を入れても、ハラスメントを本当にゼロにするのはむずかしいかもしれません。
では、実際に自分の会社でハラスメントが起きたら。後輩や同僚から被害を相談されたら。
最後に、正しい事後対応を紹介します。
フラットな視点で評価する
何より大切なのは、冷静に事実を明らかにすること。被害が発覚、あるいは相談された時点で「ハラスメントが発生した」と決めつけることは避けましょう。
まずは“どのような状況”で“どのような事案が発生したのか”を確認する必要があります。
そして事実関係が明らかになりハラスメントと認定されたあとも、自社の基準と照らし合わせて冷静に判断してください。
またジャッジする際には、複数人で話し合うことが必要な場面もあるでしょう。
被害者・加害者の精神状態に配慮する
もうひとつ、忘れてはいけないのが、被害者への配慮。表面上は明るく振舞っていたとしても、内面では傷ついているかもしれません。
被害者であると確定する前でも、訴えた人に落ち度があるかのような言葉は必ず避けましょう。
また、必要であれば医療的な支援など、外部の助けを求めることも頭に入れておいてください。
同時に、加害者とされる人に対しても配慮が必要。何度も書きますが、ハラスメントの中には通常の犯罪とは異なり、必ずしも悪と言い切れないものもあるからです。
ちなみに、加害者(とされる人)にヒアリングを行う際は、必ず被害者の承諾を得てから、プライバシーに細心の注意を払って行いましょう。
情報漏洩を避ける
前回も紹介したセカンドハラスメント。これは主にハラスメント相談の情報漏洩から発生します。
そもそもハラスメントの相談は非常にセンシティブな問題。窓口など相談を受ける部署のメンバー内でも情報の共有は必要最小限を心がけましょう。
また他社員に対して口外しないことを徹底してください。
まとめ:大事なのは「相手本位」の姿勢!
ここまでハラスメントが起きる要因や職場の特徴を解説してきましたが、参考になりましたでしょうか。
ハラスメントが頻繁に発生する職場には、多くのデメリットが生まれます。
・従業員のモチベーション低下
・社会的なイメージの悪化
従業員のモチベーション低下は社内の生産性を低下させるだけではなく、優れた人材の流出に繋がります。また社会的なイメージが悪化することも、人材の流入に大きく影響するでしょう。
少子高齢化が進んでいる日本では、どの企業でも人材確保に苦労するはず。そんな中、自ら優秀な従業員を手放すのは、大きな倒産リスクとなるでしょう。
職場の風通しを良くすること。そして上司・部下、先輩・後輩を問わず、全員が相手の立場でものごとを考えること。
ハラスメント予防に、この2点は欠かせません。
前回から何度となく書いていますが、ハラスメントを完全に予防するのは困難。それでもできるだけ予防すべく、2つのポイントを社内全体で共有しましょう。
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