前回、氷河期世代の就職事情について書きました。
そして、そこで「好評ならほかの要素について書いていく」と書きました。
その舌の根も乾かぬうちに、こんな腹立つ記事を見つけてしまったんです。
>週プレNEWS『「氷河期世代はかわいそう」論にある4つの嘘とは?』
7月の参院選で各党がこぞって案を出した就職氷河期世代への支援策。しかし、この世代は果たして"特別に不遇"と言えるのか。 …
前回の記事は、ぼくこと“魔王”くんより若い世代に向けて書いたつもりです。
そして、そこで書きたかったのは、“空前の売り手市場”と呼ばれる今の世代たちの就職市場を念頭に置きながら、ぼくら世代が「氷河期」と呼ばれるのは“就職しにくかった”からじゃない、いちばん影響が大きかったのは“一度、失敗したあとの再チャレンジが異常にむずかしかった”からだ。でも、俺らはそれなりに楽しく生きているよ、ということなんですね。
でね。
前回の記事、自分が直撃している世代ということもあって、若干「言い訳がましいかな…? でも、まあ、本当のことだし」と思いながら書いていたわけです。
ただ今回は違います。怒り80%、愚痴20%くらいの成分になると思います。
なぜかって。
ぼくはいわゆる「バブル世代」が大嫌いであり、そしてそいつらに氷河期世代のことを語られると本気で腹が立つからです。
今回は、氷河期世代の最末期に生まれた魔王くんの闇の部分を全開にして書いていきますので、苦手な方はブラウザバックだ!
氷河期とバブル期を比較してやる!

まず、前掲した記事を書いたのは興山英雄(こうやま・ひでお)氏という、フリーランスのライターさん。1978年生まれとのことなので、ぼくよりは少し年上であるものの、同じ氷河期世代です。
そして、この方に文句があるわけではありません。
ぼくが腹立つのは、この記事の取材対象である雇用ジャーナリスト・海老原嗣生(えびはら・つぐお)氏の意見です。
海老原嗣生氏とは?
かんたんに解説します。
海老原氏は1964年11月生まれとのことなので、もうすぐ61歳になる方。
麻布高校~上智大という学歴からもわかるとおり、相当頭のいい方ですね。さらに社会人としても成功されています。なにせWikipediaにページがあるくらいですから。
求人系の超大手・リクルートグループの転職エージェントサービスを担当する「リクルートエイブリック」での活躍など、はっきり言ってしまえば、ぼくなんかが文句を言うのはおこがましいくらいの方ですね。
こんな方に喧嘩を売っていいのかな……いや、まあ、殿上人みたいな方だし、大きな心で許してくれるでしょう。うん。
記事の要約
正直、ぼく自身が自分で「腹が立っている」と認識できている状況なので、自分で要約すると悪意が混ざりかねないので、この記事にある【嘘】だけを抜粋しましょう。
【嘘1】氷河期世代無業者とフリーターだらけ
【嘘2】氷河期世代の就職先は中小・零細ばかり
【嘘3】大手企業は、氷河期の新卒採用をやめた
【嘘4】氷河期世代は他世代より年収が低い
この【4つの嘘】を根拠に、就職率・収入格差などは他世代と大差ないと指摘しているわけです。
あらためて言います。この方は多くの実績を残した、優れた専門家なのでしょう。
でも、少なくともぼくは、この記事には納得がいきません。いろいろなデータを都合よく使い分けていると感じています。
就職率について
氷河期世代には無業者やフリーターが多いというイメージを「嘘」としています。
そして、その根拠として以下を挙げています。
①『その一方で氷河期に新卒で正社員になった人は毎年、約30万人。大学院への進学者を除けば7割近く』
②『年齢別に非正規雇用比率(男性)をグラフ化すると、例えばバブル世代が40~44歳のとき(04年)と、氷河期世代が40~44歳のとき(24年)と比較して、非正規率は氷河期世代のほうが2.8ポイント程度しか高くない』
③リーマン・ショック世代(10~13年大卒)が35~39歳のとき(24年)と、氷河期世代が35~39歳のときを比べると、逆に2.6ポイントほど氷河期世代のほうが非正規率は低くなる。
(いずれも記事より引用)
これこそまさに、データを都合よく使い分けているんですよ。
まず①について。前回も載せた新卒採用率の表を再度、掲載します。

これを見れば一目瞭然。海老原氏は「7割近く」という絶対数だけを表示して高いと勘違いさせようとしているけど、明らかに前後の世代より圧倒的に少ないわけです。
しかも次に②で、“今の”非正規雇用比率について書きだして、2.8%“しか”高くないと相対評価し始めました。
この人は何を言ってるんでしょう。その前に新卒就職率を出したのなら、ここでも“新卒時の”非正規雇用比率を出すべきでしょう?
それをしないのはかんたんです。新卒就職率が85~90%くらいあったバブル期と比較すると大差がついてしまうから「今の数値」で比較しているんです。
これはライターのプライドとして書き残しておきます。
「絶対評価」と「相対評価」を使い分けるのは、物書きとして“卑怯”極まりない。
ぼくはこのあともすべて絶対値で比較していきますね。
最後に③について。新卒採用率の表を見てもわかるとおり、リーマンショックも大きな影響がありました。
ただ、「お前らと同じくらい大変な世代もいるから、がまんしろ」と言われるの、腹立ちませんか? それをリーマンショック世代に言われるならまだしも、バブル世代に言われて「はい、そうですね」となるわけないでしょう。
就職先について
これに関しては、微妙なところです。というのも、「大企業(従業員数1000人以上)」と「それ以外」でというざっくりした区別では、何も分からないからです。
ただ、前回も書いたとおり、あくまで個人的な体感では、不況にビクともしない大企業の新卒募集自体はそれほど少なくなかった印象があります。
ちなみに。
大企業への就職人数はバブル期…年平均11.67万人、氷河期…年平均10.43万人で、「差は1割程度に過ぎません」(記事より引用)としていますが……1割ってめちゃくちゃでかいよね。
それにバブル期が88年卒~92年卒の5年しかないのに対して、氷河期世代は93年卒~04年卒の12年分。期間が2.4倍、長いわけですから、総数を考えれば「1割程度の差」なんて言い方のイメージより差は大きいことが分かっていただけるでしょう。
【大学進学率】から嘘をあばく!
もうひとつ、大学進学率の差も考えるべきです。
まず前提条件として、バブル期(66年~70年生まれ)と氷河期(71年~82年生まれ)の出生数は大きく変わりません。ざっくり、毎年200万人くらいです。
(細かく書くとバブル期5年間の総数約1018万人、氷河期12年の総数約2408万人。期間差が2.4倍なのに対して人口差は2.364倍なので“大差ない”と判断しました)
そして84年から88年の大学進学率は平均値36.14%、ピーク値37.6%。一方、氷河期世代(89年~00年)は平均値43.21%でピーク値49.1%。
平均値から大学進学者の人数を出すと、バブル期が1年あたり72.3万人程度なのに対して、氷河期世代は86.4万人。つまり進学者が毎年14万人程度、増えたことになります。
そこから導き出される、より詳細な「大卒者の大企業への入社率」は……
氷河期…12.07%
倍率にすれば1.34倍。これでも「大企業に入社しにくかったは嘘だ!」と言えるんですかね?
大企業の新卒採用について
これに関しては特に言うことはありません。
「ネット上では「有名企業もゼロ採用」「総合商社や金融も採用数大幅減」といった言説が広がる」(記事より引用)という根拠を一切明示しない前提条件が気になるくらいです。
前回も書いたし先ほども書きましたが、99年~04年という氷河期世代でも“本当の地獄”期に大学を卒業したぼく自身でさえ、大企業の新卒採用は普通に行われていた印象を持っているくらいです。
(前後、特に後の世代のことなんて分からないから「普通」というのも変ですけど)
この部分に関しては、「ここまで都合のいいデータを引っ張り出してきたのに、それができなかったから『ネットの言説』なんて不確かなものを出してきたのかな?」と思うだけですね。
年収について
ここは本当にひどい。“詭弁”だらけです。
まず前提として「厚労省の『賃金構造基本統計調査』によれば、2000年以降、年収は広い世代で下降傾向にあります。これは、60歳から65歳への定年延長に合わせ、06~13年にかけて企業が段階的に総人件費を抑制した影響です」(記事より引用)とありますけど、これ、なんで10年以上前の情報で止めたの?
ニュースでもさんざん「ついに平均年収が30年前の水準を超えた!」ってやってたくらい有名なことなので、わざわざ根拠を示すまでもないけど……厚生労働省が発表している『令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況』を見ると、2014年くらいまでは緩やかな下降傾向にあるものの、2015年から上昇に転じているんですよ。
お会いしたこともない方の記事を勝手に引用しておいて言うのもあれですけど……いくらなんでもこれは、ひどすぎませんか?
続いて「私の試算では、両世代の年収差は7%程度。40歳時点でバブル世代が年収700万円なら、氷河期世代は650万円という計算です。この差に不満は残るでしょうが、ポスト氷河期世代やリーマン・ショック世代は、社会に出た時点から減収の影響下にあり、被害はむしろ大きい。年収格差は氷河期だけの特別な問題ではないということです」(記事より引用)とありますが、ここにも大きな問題があります。
これ、年収額、つまり「額面」の数字を比較してるけど、大事なのは「手取り」じゃないんですか?
現代って給与から天引きされる社会保険料とか税金の金額がくそ上がってるわけじゃないですか。しかも本当に直近に限って言えば、インフレも半端ないわけですよ。
こんな状況でもっとも見栄えのいい「年収額」だけを見せてくるなんて……詭弁以外の何物でもありません。
国民負担率の推移
「数字を使った詭弁」には公的資料で対抗しましょう。
先ほど挙げた、所得に対する税・保険料の割合を「国民負担率」といいます。
そして、財務省はホームページで「令和7年度の国民負担率を公表します」という形でその数値を公表しているわけです。
こちらのPDFによると、国民負担率は…
2010年…37.2%
2025年…46.2%
(※2025年度の数値は見込み)
こちらを基に「手取り額」を算出してみましょう。
2010年に年収700万円だった場合、そのうち260.4万円が天引きされるため、手取り額は439.6万円。
一方、2025年・年収650万円の場合は300.3万が引かれ、手取り額は349.7万円となりました。
ここで、先ほどの海老原氏のコメントをもう一度ごらんください。
「私の試算では、両世代の年収差は7%程度。40歳時点でバブル世代が年収700万円なら、氷河期世代は650万円という計算です」
しかし、手取り額で見るとバブル世代は約440万円、氷河期世代は約350万円。
年収差も海老原氏の試算の約3倍となる20.5%となるわけです。
ぼくは海老原氏が頭がよくて博識なことを理解しています。当然、こんな数値もとっくにご存じんなはずです。知っているからこそ、見栄えが悪いからこそ、あえて「年収」を出してきたんだと思っています。
これ以上罪深いことがあるでしょうか。
もうひとつ、個人的に言いたいこと
上でも引用していますが、どうしても言いたいことがあるので再度、部分的に引用します。
「ポスト氷河期世代やリーマン・ショック世代は、社会に出た時点から減収の影響下にあり、被害はむしろ大きい」
ポスト氷河期世代やリーマン・ショック世代に影響がなかったとはいいませんよ。ただ、2008年のリーマン・ショックと2011年の東日本大震災、この2つの影響をもっとも受けたのって、氷河期世代の中でも比較的うまく行っていなかった人たちだと思うんですよ。
いわゆる「アベノミクス」で景気が上向きになった2012年当時は、“30歳を超えると再就職が一気に厳しくなる”と言われていました。
そして、そのころの氷河期世代の中の“地獄世代(00年~03年卒者)”は31~34歳。この年齢で会社を失った人は、それはもう相当にきつかったはずなのです。
だって同時期に5~10歳、若い世代も職を失ったわけじゃないですか。彼らと数少ない中途採用枠を争っていたわけじゃないですか。
どの企業だって30歳を超えた人よりも、20代中盤~後半の人材を採りたいに決まっていますから。
ぼくたち氷河期世代って、“貧乏くじ”を引かされ続けた世代なんですよ。
まとめ:バブル世代はだまってろ!

事前の予想以上に批判的なコラムになっちゃったけど、嘘は書いてない……はずです。いつも以上に、いろいろ調べながら書きましたから。
という言い訳をしたうえで、最後に少しだけ感情的なことを書かせてください。
いわゆるバブルを崩壊させたのはバブル世代と、その少し上の世代です。今70歳くらいより上の人たちですね。
正直、“上の世代”の人たちに文句はないんです。彼らは敗戦後、なにもない時代から信じがたい努力と忍耐を重ねて日本を経済大国に押し上げた世代ですから。
なにより、彼らが築いた繁栄なんだから、彼らのせいで壊れたとしても、文句を言うことじゃないと思うんです。
ただね、バブル世代……というか、バブル期である88年~92年を20代として過ごした世代の人たちは、そうじゃない。
彼らは適当に生きていたら勝手に好景気になって、浮かれて、欲望のまま楽しんで、バブルを終わらせた世代です。
そして何より罪深いのは、その後にきた(今のところ)日本にとって最後の大チャンスだった“ITバブル”をモノにできなかった世代でもあるんです。
世の中で大事なのは「何を言うか」よりも「誰が言うか」。
ぼくの目から見て役立たずでしかなかったバブル世代にだけは言われたくありません。
……。
しかしまあ、ここまで批判的な記事を書いたのは初めてですねえ。
このコラムをお若い方が読んだら、どう感じるんでしょうか(笑)。
「ジジイ同士のけんか、みっともねーな(呆)」
ぜひともそんな感じで受け止めていただいて、そしてぼくを反面教師にしていただければ幸いです。
明るい未来をつくるのは、いつだって若い世代。
ぼくは心から、Z世代の皆さんに期待しています!
俺らやバブル世代にはできなかった、“楽しい日本”をつくってください♪
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